Vision のアクリル積層ケースを設計した話

Alice 配列キーボードとの出会い

ある日、私は偶然にも Daihukuさん 主催の kb-elmo/sesame の GB を目にするのでした。

(※ GB 自体はすでに終了していますのでご注意ください)

早速、参加表明した私は、初めての Alice 配列(アングルスタッカード配列とも)のキーボードを触ることになりましたが、いわゆる一般的な直列型のキー配置でなくてもすんなりと手に馴染む感じは、さすがクローンが大量生産される人気レイアウトなだけあるなぁーという感想でした。

引用: Github - kb-elmo/sesame: Alice type ergo keyboard using only THT parts

もともと分割型のキーボードでマウスやトラックパッドを挟んで使うスタイルに慣れていましたが、 このへんは以前のスタイルに戻っただけなので特に不便もなく、どちらかと言うと Alice 配列キーボードのデザインのスタイリッシュさや取り回しのしやすさに興味を持つことになりました。

40% のサイズのものはないだろうか? → Vision いいね

この sesame を使うということはつまり、60%レイアウト(フルサイズキーボードからテンキーやファンクションキー部分を廃したもの)を使用することになるのですが、もともと 40%レイアウト(60%サイズから更に数字行を廃したもの)のコンパクトさに魅力を感じている私としてはやはり無駄なキーが多いと感じ始めます。

例えば数字行に関しては、日頃デスクワークやプログラミングなどは一般人よりは多いものの、そこまでシビアに打鍵スピードが必要というわけでもないので、物理的に独立して存在しているメリットはあまり感じず、どちらかと言うとキーボード自体のサイズがコンパクトに纏まっていることが心地いいと感じるタチなのです(遠くの一打よりは、近くの二打の方が好きな感じです)。

ということで、おおよそ 40% のサイズ感で Alice 配列のものがないかを探し始めました。かわいいは正義。

Lain

引用: Lainについて - 5z6p Instruments

GPK60-46A

引用: Poker互換60%ケース対応キーボード GPK60-46A - Daraku-Neko - BOOTH

cool844

引用: cool844自作キーボードキット - mki0002ozlet - BOOTH

Vision

引用: Vision キーボード PCB - SatT Keyboards - BOOTH

Prime_E

引用: Reddit / 本家: Prime Keyboards

Alix40

引用: TOKYO KEYBOARDプロジェクト #5 | TOKYO町工場HUB

どれも 40% でかわいいわけなんですが、現在も販売しているもの、自分の親指の運指に合いそうなもの、キースイッチがホットスワップできそうなもの、コネクタは USB-C なもの、…などの観点で悩んだ結果、SatT さん設計の Vision キーボード PCB - SatT Keyboards - BOOTH を買ってみることにしました。

(※実は、同じようなタイミングで Lain の GB も始まったので実はこれもポチっています😂 はやく届けぇぇ)

ただ、残念ながら Vision の PCB(基板)やマウントプレートは現在も入手可能なのですが、専用の金属ケースの販売は 2020 年 10 月の限定販売をもって終了してしまったようで現状は手に入りません。ぐぬー。

アクリル積層ケース設計という選択肢

これまで私が組んできた自作キーボードキットは、いわゆるケースというものが存在せず、マウントプレート/PCB プレート/ボトムプレートの 3 枚の板で構成される方式のものばかりでした。

ある程度汎用で互換性を考慮された PCB だとケースも販売されて入手性も良かったりするのですが、(※私が探した限り)今回の Vision だとマッチしそうなケースを入手することが難しく悩んでいたところ、ちょうどうろちょろしている界隈で自作ケースの設計話がなされていたこともあり、ケース自体の設計にも興味をもつことになりました。

とはいえ、ショットでの金属削り出し加工という路線では、財布情勢的にキビシそうだったので違う路線をということで、アクリル積層の道を模索することとしました(※結果的にアクリル積層もそれなりの額に積み上がってしまいました、積層だけに。...なんつって、まじで笑えない)。

ちなみに、過去に Lily58 を Tenting したくてマウントプレートとボトムプレートを設計したことはあったのですが、基板やプレート全体を包み込む「ケース」という観点では未経験の状況からのスタートでした。

ガスケットマウントにしてみたいなぁ

キーボードケースについて色々調べるうちにわかってきたこととしては、いろいろなマウント方式が存在するということ。ここで言うマウントとは基板などをケースに固定する事を指します。

種類と特徴は プレートマウント方法とスイッチとの相性情報 - Self-Made Keyboards in Japan に解説をおまかせするとして、一番興味を持ったのは「ガスケットマウント」という方式で、ケースとプレート類を直接接触させて固定するわけではなく、ガスケットと呼ばれるクッション材を間に挟んで保持するというものだそうです。

もともと Vision のマウントプレート自体もガスケットマウントを想定したもののようで、マウントプレートにミミが出っ張っているので、これ幸いということでガスケット(風)マウントにしてみることとしました。

かくして、ガスケットマウントなんて触ったことのない素人が、見よう見まねで設計を始めるのでありました。

具体的な積層構造を考える

精密なノギスなどを持っていなかったのでいい加減な採寸ではありますが、加工サービスで流通していそうな 2mm / 3mm / 5mm ぐらいのアクリル板を想定して、どう重ね合わせるかの層構造を考えていきました。

layers

上から 2 層目が今回の目玉であるガスケットマウントに相当する部分で、1.6mm 厚のマウントプレートの上下をスポンジなどのクッション材で挟み込んで固定する感じになります。

また各プレートの固定に関しては、アクリル板材へのネジ切り加工は難しいと思ったので、中間層にスペーサーを仕込んで位置ずれを防止しつつ、トッププレートとボトムプレートでネジ止め&挟み込みする方針としました。

各プレートの形状を考える

次にケース全体のデザインを考えるのですが、正直、「硬派で、シンプルで、Alice 配列特有の中折れデザインを活かす形にしたいっ...!」 というぐらいしか考えておらず、出来上がりはまさにめっちゃシンプルになりました(もうちょっと遊び心があっても良かったなぁ😂)

また、レーザー加工業者さんに発注することを前提にしていたので、業者さんが指定するファイル形式やストロークスタイルに気をつける必要があります。

大体の業者さんは使用する機器の関係上、Adobe の Illustrator 形式(.ai)を要求することが多いようですが、あいにく私は該当のソフトは持っておらず、フリーソフトの Inkscape を使用してベクトル画像形式(.svg)で設計することにしました(…これが M1 Mac と相性最悪で非常に使いにくかった… orz)。

全体を重ねた時の透過イメージ

all

トッププレート(一番上の層)

top

サンドプレート(マウントプレートとガスケット材を収める層)

sand

マウントプレート(これは購入品)

mount

ミドルプレート(基板類を収める層x2)

middle

ボトムプレート(一番下の層)

bottom

※ 各プレートの呼称は私の勝手命名です。もしかしたら他に正しい名前があるかもしれません。

業者さんにレーザーカット加工を依頼する

今回は 5mm 厚のアクリル材の加工が必要なのですが、よく利用させてもらっている秋葉原の 遊舎工房さん ではクリア色しか選択できず、かわりに福岡の Anymany(エニメニ)さん にマットブラックでお願いしてみました。

なお、Anymany さんでは .ai ファイルの場合だとオンラインでスピード注文ができるようですが、私は前述の通りベクトル画像形式での見積もり/発注となりますので、問い合わせフォームから個別見積もりをしました。とても迅速で丁寧にご対応いただきました。

もし同じようなケースを使いたい/改良したい!!という物好きな人がいらっしゃったら、見積もり&発注に使った SVG ファイルをおいておきますのでご自由にお使いください。

板材サイズファイル(※右クリックでSVGの保存ができるはず)
300×600×3mm3mm
300×600×5mm5mm

※ 基本的に煮るなり焼くなり好きに使っていただいてOKですが、完全無保障ですのでそのへんはお察しください!!(メールなりDMいただければ簡単な質問ぐらいはお答えできると思います。多分。)

加工されたアクリルパーツの到着

途中連休を挟んだのとオリンピック開催での物流遅延などもあったかもしれませんが、だいたい 4 営業日ぐらいで手元に来た感じですかね。お早い。

arrive

組立工程

到着したアクリルプレートと、Vision の PCB / マウントプレートを組み立てていきます。

まずは、ボトムプレートにスペーサーを立てて裏側からネジ止めしていきます。

assemble_bottom

次に、ミドルプレートをスペーサーに合わせてすぽすぽと嵌めていきます。

すぽ。 assemble_middle_1

すぽ。 assemble_middle_2

最初は中身空っぽ状態で使おうかと思っていたのですが、仮組みしてみたら打鍵音が大きく響くようなので、消音効果を狙ってカットしたスポンジシートを入れてみることにしました(ちなみに、効果の程はほんとに「気休め程度」でした😂 これは使ってるスイッチに依るところが大きいのでしょうね)

assemble_sheet1 assemble_sheet2 assemble_middle_and_sheets

おつぎは、PCB プレート。切り欠いた穴に PCB 下面のソケットやダイオードの凹凸をあわせて乗っけていきます(写真取る前に指紋拭けばよかった...😂)。

assemble_pcb

更に PCB の上に、マウントプレートとの隙間を埋めるスポンジシートを入れていきます。

assemble_sheet3 assemble_pcb_sheet

マウントプレートを載せてキースイッチをはめていきます。スイッチはタクタイルの Everglide Dark Jade を使っています。

スコスコ音、好こ。

(一番のミソだったガスケットマウントですが、いい感じの厚さの材料が見つからなかったので、適当にマスキングテープを重ねて仮挟みすることに。後でちゃんと直すます...。ハイ... 😂)

assemble_mount

サンド用のプレートを重ねます。これでアクリルの天面がほぼ平らになります(※厳密にはガスケット部がほんの少しだけ飛び出ていてトッププレートがそれを押しつぶしながら固定する感じ)。

assemble_sand

トッププレートを重ねてネジ止めします。

assemble_top

キーキャップをはめて完成 👏👏👏👏 !!!(キーキャップは NP プロファイルのブランク白&黒の 2 セットを混ぜて使ってます)

assemble_finished

あとは裏側にシリコン足などをお好みで付けて好みのチルトにする。これにて組み立て完了!

そして、かかったお値段、プライスレス...!!!

趣味を金額で測りだすととたんに興が冷めますが、真面目な話、何回もホイホイ気軽にチャレンジできる額ではないですねぇ(夏のボヌスがなかったら息してなかったかもしれません)。

いろいろ見直せばもっとコストカットできると思うのですが、備忘録としてかかった金額を残しておきたいと思います。

品名金額備考/リンク
Vision PCB3,500Vision キーボード PCB - SatT Keyboards - BOOTH
Vision マウントプレート(FR4)2,000Vision用 追加プレート - SatT Keyboards - BOOTH
アクリルレーザーカット加工
(300 x 600 x 3 mm, 300 x 600 x 5 mm)
17,900Anymany(エニメニ) 個別見積もり
M2 スペーサー(12mm)760ARB-2012E: 金属スペーサー|ヒロスギネット 20個入り
M2 六角穴付きボルト(8mm)699M2x8 六角穴付ボルト - 通販モノタロウ 39個入り
NBR スポンジゴム(300 x 300 x 2 mm)789NBR-336 NBR スポンジゴム - 通販モノタロウ  1枚
NBR スポンジゴム(300 x 300 x 3 mm)939NBR-336 NBR スポンジゴム - 通販モノタロウ  1枚
(お好みの)キースイッチ-48個
(お好みの)キーキャップ-48個
(お好みの)2Uスタビライザー-1個
(お好みの)ゴム足/シリコン足-お好みで。

※ 時世によって価格が変動する場合もありますので、あくまでご参考程度に御覧ください。

ひえ〜って感じですね。

さいごに

完成した実物をまじまじと眺めますると、

  • 硬派なデザインに走りすぎたなー。もうすこし遊び心を入れてみても良かったかもなー。
  • リストレストがあるのでそんなに気にならないけど、体高はもう少し低く抑えても良かったかもなー。
  • ゴム足じゃなくてアクリル積層パーツでチルト足を作ってもよかったかもなー。
  • 3D CAD スキルがあると具体的にイメージしながら設計作業ができて楽だろうなぁー。
  • エニメニさんでフェルトのレーザーカットを頼めば、自力カットのスポンジよりフィットしたかもなー。

というような反省点も思い浮かんで来ますが、総じてとても有意義なチャレンジでした。

また機会(と若干のお金)があれば挑戦したいですね!!

この記事は、自作のアクリル積層ケースに載せた Vision で書きました。

参考文献

© 2021 czu.jp